「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」を読んで、ついでに「電子新聞」について考えてみた


http://mnishi.cocolog-nifty.com/mnishi/2010/04/ipad-vs-4ebook-.htmlによると、四刷目が決定、さらに。eBook版も出るみたい。このテーマの本を、紙の本で読むのは、何となく滑稽な感じがしていたので、胸のつかえが下りた感じ。


さて、楽天に注文してから、届くのに三週間もかかった本書だが、先日の出張の移動中に一気に読み終えた。僭越だが、感想めいたものを書かせていただく。

分かりやすく描かれた両者の違い


同じ「電子書籍」という土俵に居るiPadキンドルという、両者の違いは、単にデバイスやプラットフォームの違いというだけではなく、ビジネスモデルの違いであることが非常に分かりやすく書かれている。通信方式の違い、課金の違い、データフォーマット、そしてE-INKのこと。電子書籍の歴史を、どこかの陣営に肩入れすることなく、淡々と述べている(USソニーの野口氏は登場しすぎと思うが^^;)。


それと、新聞についても取り上げているのが、非常に興味深かった。本書では、「出版社より新聞社の方が電子化に積極的」と指摘している。新聞社の中にも色々あって、本書では「日本経済新聞」(所謂全国紙)と、神戸デイリースポーツ(地方紙)を主に紹介している。神戸DSは地方紙というよりは地方紙の発行しているスポーツ新聞なので、正確には地方紙ではないが。


未だイメージが固まっていない「電子新聞」


電子書籍」という言葉とともに、「電子新聞」の話題は、ずいぶん前から新聞業界の中で議論になっている。面白いのは「電子書籍」というと、ある程度同じようなイメージを描けるのに対し、「電子新聞」は未だに「新聞社」と「新聞制作システムメーカー」の間で共通のイメージが出来ていないことだ。「新聞社」同士、あるいは「新聞制作システムメーカー」同士ですら、共通認識は無い。


「電子新聞」は「新聞」だけに、毎日発行される。内容は毎回変わる。連載もあれば、続報もある。それを電子化する、となると色々な可能性が出てくる。その多くはWebでも可能な事だ。だから新鮮味が無い。
単に印刷した新聞紙面を電子デバイスで読ませる事が「電子新聞」なのであれば、課金方法さえしっかりしていれば、どこの新聞社でも既に可能だ。紙面や記事、写真のデータベース化はどこも行なっているからだ。後は、出力方法を考えればいいだけだ。でも、単に紙の印刷物が、データを電子化して電子デバイスで読めるようになる、それだけでいいのか、という思いが、新聞社にはあるように思う。


「電子新聞」で部数はどうなる?


新聞社が「電子新聞」を発行できないのは、紙媒体のように収益を確保できる「電子新聞」のビジネスモデルを描けていないからだ。


知り合いのメーカー関係者は、「地方紙よりも、業界紙の方が電子化には積極的」と話していた。なるほど、業界紙は地方紙と異なり、新聞販売店の顔色をあまり気にしなくていい。しかも読者は全国にいるから、部数はそれほどでもないけれど、印刷や発送のコストはかかる。なら、課金方法さえあれば、電子化してコストを下げよう、ということらしい。


地方紙は逆に、新聞販売店の顔色を気にする必要がある。彼らと喧嘩してしまったら、読者に新聞を届けることはできないからだ。だから新聞の電子化により、「紙の部数」が減ることを何より気にする。日経電子版の価格は、それを考えに考えた数字だと思う。


地方紙の場合、多くの読者は「高齢者」だ。彼らはiPadキンドルはおろか、ネットで情報を得る術もない。だから、毎朝届けられる新聞は、貴重な情報源となっている。


地方紙は必死にNIE活動などを行っているが、その成果を出すことができず、若者の新聞離れは進んでいる。子供にとって新聞は「親が購読している」もので、「自分が購読している」ものでは無いのだ。だから大学進学や就職で一人暮らしを始めると、新聞を購読しなくなる。そのまま家庭を持ったりしても、新聞を購読する習慣がなくなっているから、自分が「親」になっても新聞が無い家になる。そうした家に生まれた子供は「新聞」を知らない子供として育っていく。どこかの知事が危惧している、若者の活字離れには疑問を呈するが、若者の新聞離れはれっきとした事実だ。


一方で、若者は高齢者とは逆に、電子デバイスから情報を得ることができる。「新聞を読んでいない」彼らに、新聞に掲載されている情報を届ける媒体として、「電子新聞」は期待されている。個人的には、PDFで紙面データを表示させる程度の電子新聞を発行しても、料金体系次第では「紙」+「電子」の読者を増やすことは可能だと思っている。


今、全国の地方紙は、日経電子版の行方を、固唾を飲んで見守っている。価格はあれが適正なのか、部数はどうなったのか、収益は・・・。早く自分たちも何かしなければならない、と、どの地方紙も考えているはずだ。だが、自分が先頭を走ることには、躊躇いを感じている。しかし、地方紙にのんびり考え続けている時間は無い。


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